年末なので、この1年の振り返りを書いておきます。まだ仕事が収まってないので、ブログを書こうかどうか迷ったのですが、書くことにしました。
今年のウイスキー活動は、ポッドキャストのウイコネ(Whisky Connect)の編集を含めて、ずっとそれ中心に動いていた一年でした。途中、細かい休みはあったかもしれませんが、それでも結果として50回以上は出せたと思います。まずはそこが素直に良かったところです。お忙しいところ毎度夜中まで収録してくださったDrinker’s Loungeさん、聞いてくださっている皆様には大変感謝しております。
ウイコネは有料版もありますが、両者を続けたことで自分のウイスキーのアウトプットのペースを掴めた感覚があります。飲む頻度や向き合い方のリズムが整ってきて、思考整理のスピードが上がったような気がしたのはかなり前向きな変化でした。
ということでウイコネが発信のメインではありますが、今回は、個別ボトル紹介というよりも、この一年の活動全体を俯瞰して、自分の中で引っかかったことを中心にまとめます。
ウイコネでは、テーマ回もボトル回も含めていろいろ話してきました。正直、今さら「新しいことを始めます」みたいな方向に無理に寄せるより、今まで触れてきたことの延長線上で、この一年を一度整理する方が自然だと思っています。
話す場があると、飲むだけで終わらせずに、飲んだ経験を言語化しようとするんですよね。その積み重ねで、味の好みだけじゃなくて、買い方や選び方、付き合い方まで含めて、自分の輪郭が見えてきた一年でした。
その上で、今年の空気感を決めたのは、やっぱり現行市場の変化だったと思います。
現行市場の空気感
これは今さら言うまでもないかもしれませんが、現行ボトルの売れ行きが全体として鈍くなってきている、という感覚は強くありました。統計上もそうだと思いますが、あくまで僕の観測範囲の話は、酒類業界の皆さん苦労されているなあと感じてしまいます。
日本国内だけ見ても、円安と価格高騰の影響はかなり大きいです。ただ、それ以上に僕が強く感じたのは、スコッチの売れ残りが目に見えて増えてきたことと、セールが増えたことです。売れていないからセールが増えるのか、セールが増えるから市場の見え方が変わるのか、そこを断定するつもりはないですが、少なくとも「売れにくくなっている」空気は濃くなりました。
その上で、日本はウイスキーの流れが遅れて入ってくることもありますし、円安の影響で高い状態のまま飲まされている面もあるので、海外の市場で起きている調整の恩恵をそのまま受けられているかというと、正直そうでもないというのが体感です。
今年飲んだニューリリースの傾向
今年もいろいろ飲みましたが、ニューリリースに関しては二極化が進んでいる印象が強いです。高額の長熟ボトル、2万円くらいまでの短熟のボトルに分かれてきている感じがあります。数年前の3万円くらいのボトルが5万円くらいのボトルの評価軸にきてしまっているイメージです。2023年をピークに出荷量・生産量は低下傾向といえど、円安の煽りも受けてなかなか恩恵にあずかれないという感覚がありました。
短熟側で人気のボトルを振り返ると、フルーツ感が強い方向に振ったものが多かった印象です。逆にいえば麦々しいというか、モルティーさがど真ん中でしっかりしている、みたいな体験は今年はあまり多くなかった気がします。まあわかりにくいというか詰めるのが早かったように感じるボトルって減ったなあと思います。
もう一つは樽の多様化です。ちょうど2010年代になってから、樽が高くていろんな樽を使用するようになってきたという話は以前から聞いていましたが、スコッチ側にもいろんなバリエーションのカスクがかなり出てきたと感じます。フィニッシュと言いつつ5年以上熟成されたボトルも増えてきました。すでにジャパニーズの世界では、いろいろな樽を使ったリリースが目立っていましたが、スコッチでも同じように「樽で遊べる」余地が増えてきたのかもしれません。
長熟の難しさ
長熟をたくさん飲む機会があったかというと、そこまでではありません。ただ、飲ませていただいた範囲で感じたこととしては、高価格帯になってしまい、そのボトルが「この価格だと美味しくて当たり前」と感じてしまうことです。価格に引っ張られる評価が難しい時代なのはいままでもそうでしたが、今年もさらにそういう傾向に入ってきたな、と感じます。
高額長熟ボトルにはもう一つ試練があると感じます。どうしても2010年代までのリリースで、いまだに流通で拾えてしまうボトルと比較される運命にあります。比較されること自体は当然ですが、市場が飽和してきた今、そこで勝負するのはかなり厳しいと感じます。投機的なボトル購入が進んだこの10年、「バブル」が弾けるときは一気に来るだろうという怖さを感じます。そのときは現行ボトルの本当の試練なのかなと邪推してしまいます。
出張の一年と、飲めた場所の話
仕事とプライベートの話になりますが、今年はかなり忙しくさせてもらった一年でした。特に後半は出張だらけで、初めて出張が本気で嫌になる日が出てきたくらいです。
ただ、その分、東京で飲む機会も増えましたし、東京以外の都市で飲む機会も増えました。結果として、全国各地でいろいろ飲ませていただいた一年でもあったと思います。地方都市でも都市部でも、それぞれの場所にそれぞれの良さがあって、飲む環境が変わるだけで、同じボトルでも受け取り方が変わるのが面白いところです。地元のバーに行く頻度が減ったのが心残りですが、さすがに飲む頻度は限りがあるので…
後半は畳みかけるようにJ’s Bar池袋に行っていましたし、有楽町のキャンベルタウンロッホにも結構行けました。移動はしんどいのに、飲む時間があると回復してしまうのは、我ながら単純だなと思いつつ、ウイスキーに助けられた部分も大きかった一年でした。
ブログと発信の話
ブログとしては、好評いただいたシェリー樽の話も書きましたし、それ以外にもいろいろと手を動かした一年だったと思います。もう少し多くの種類のウイスキーを飲みたかった気持ちはありますが、時間と予算には限りがあります。その中では、正直、自分の中の限界に近いところまでは飲ませてもらった一年だったと思っています。
ウイコネを通じて、そしてそれ以外の活動も含めて、いろいろ動けた一年でした。ジャパニーズウイスキーの蒸留所の方々とも仲良くさせていただきましたし、蒸留所見学も新たに何か所か行けたのは大きな収穫でした。
ジャパニーズウイスキーとの距離感が変わった
以前の自分からすると意外に思われるかもしれませんが、今年はジャパニーズウイスキーをだいぶ飲んだ一年でした。2010年代後半の第1次ブームから数年が経って、成熟してきた部分があるのではないか、と感じています。
数年前までの僕は、ジャパニーズウイスキーは「ジャパニーズという枠の中で美味しいかどうか」という評価軸と、「スコッチとどう戦うのか」という評価軸の間に、ギャップがあるように感じていました。ところが、この1年に関しては、そのギャップが少しずつ埋まり、同じ土俵に立って競合として認知してもおかしくないフェーズに入りつつあるのではないか、と思う瞬間が増えました。
もちろん「競合」の定義は難しいです。現行をたくさん飲んで、純粋に味だけで競合と言えるのか、そこに市場があるのか、そういう問題は別にあります。ただ、香味のカテゴリーとして「こういう感じだよね」という感覚が、スコッチと一致してきた部分があるように思います。
理由は二つあって、一つはジャパニーズが成長してきたことです。もう一つは、スコッチ側に扱いにくさというか、物足りなさを感じるボトルが出てきたことです。その二つが重なってしまった、という印象です。
2010年代後半蒸留のスコッチについては、僕自身まだ経験が足りないので、あまりピンとこないものもあれば、ボウモアのように「おっと」となるものもある。そこは正直、まだ見えていない部分が多いです。ただ、だからこそ、熟成が比較的早いジャパニーズが、十数年クラスのスコッチの競合になりつつある、という景色が見えてくるのは面白いところだと思っています。
技術とニーズ、そして横並び
ここからはボトル単体の出来不出来というより、もう少し俯瞰の話です。今年は特に、作り手の設計思想と飲み手の欲しいものの間にズレが出やすい時代なのかもしれない、と思うことが増えました。
横並びになりやすい、という問題は正直否めないと思っています。製品としてのニーズがどうなっていくのか、いちドリンカーとしては難しい局面です。
技術的にここが違う、という話で売っていく世界は、技術と実際のニーズにギャップが生まれやすいと言われます。ディープテック系のスタートアップなどでは典型的な話ですが、収益構造やギャップに関して、ウイスキーにも似た構造があるのではないか、と感じることがあります。
もちろん、ウイスキーは消費者が気軽に「こういうの作って」と言って作れる製品ではありません。そこは蒸留所の方々も皆さん苦労されているはずです。僕自身も、典型的な飲み手のど真ん中にいるわけではありませんが、だからこそ、この飲み手の立ち位置や距離感を言葉にして、橋渡しできる部分があるのではないかと思っています。
現行でベストを語る難しさと楽しみ方
SNSで年末の投稿もいろいろ見させてもらいましたが、僕の観測範囲ではベストボトルを現行ばかりで挙げている人は多くない印象です。突き抜けたボトルって、観測しづらくなって来たように感じます。
長熟フルーティーなボトルは価値基準が寄りすぎて、そこに価格が乗って跳ね上がる。そもそも仕入れが高い。仕入れの問題も含めて、どの業種も難しい時代に入ってきたんだろうな、と感じます。現行はアルコール感の強いボトルも多いですし、評価は高くなりにくいでしょう。それでも、今の現行がどれほど将来評価されるのかはちょっと分からないところがあります。2025年もスコッチの現行が大好きと感じて飲んでいる人でガンガン飲み進めている人はそこまで多くない気もします。僕自身、長熟のハウススタイルの感じにくいフルーティーメインのボトルにはかなり飽きてきているというのはあるので現行のボトルに気持ちが寄ってきているのですが、現行の短熟〜中熟で「これは!」と思う突き抜けたボトルって中々出会わないような気がします。これは僕の受け手側の問題なのかもしれませんが。
ただ、突き抜けてないボトルに価値がないと言っているわけではないことは申し添えたいです。例えるなら、大谷翔平以外の野球選手に価値がないというのは野球の楽しみ方としておかしいと感じますよね。ウイスキーも同じだと思うのです。多くのボトルには飲み方というものがあると思います。そのボトルにどのような楽しみ方をするか、言い換えるとどのようにスポットライトを当てて楽しむか、ということも重要で、そういう意味でも現行ボトルを飲むのは面白いとは思っています。
そういう意味で2010年代後半の現行と、熟成の早いジャパニーズクラフトウイスキーを飲み比べると、ジャパニーズも戦えるものが増えてきたような気がするんですよね。そういうジャパニーズとスコッチの現行が同じ土俵で戦おうとしてきていて、たまに自分の常識から離れたボトルが出てくるのだけどウイスキーとしてこれはこれでアリと思える、そういう面白さを感じられたのは2025年でした。こういう時代になったとは2010年代には思ってもみませんでしたが、なるべくフラットに、柔軟に、今市場にあるウイスキーを楽しみたいと思います。そしてせっかく日本にいるのですから、日本のウイスキーの楽しみ方を新たに見つけられたらなと思いますし、そのような楽しみ方をウイコネやブログ、Xなどのインターネット、各種イベントなどで共有出来たら良いなと思っています。
松木先生のブログはアップデート予定です
話が前後しますが、4月には「ストイックなドリンカーの日々」の移設のお手伝いをさせていただきました。松木先生にも喜んでいただけて何よりなのですが、Googleにうまくひっかかっていないと言う問題があり調整中です。2026年もレベルアップさせてアップデートしていきたいと思っています。
松木先生の記事は、ウイスキー界にとってかなり大事だと思っているものですので、長くネットの中に残ってほしいと感じています。だからこそ、自分の活動と関係なく独立して情報を残すことを意識して活動していく所存です。
おわりに
繰り返しになりますが、僕はジャパニーズウイスキーを無理して応援するつもりはありません。ただ、現行好きドリンカーとして面白いと思えるようになってきた。だからこそ、その面白さを皆さんと共有できたらいいなと感じる1年でもあり、ジャパニーズの面白さに少しずつ傾倒した2025年でもありました。。
ジャパニーズウイスキーが大好きな人と、スコッチをメインで飲んでいる人の間には、深い溝があると個人的には感じています。しかも、そのスコッチ側ですら、現行を十分に追えていないという状況もあるのではないか。そういう意味でも、今はとても面白い、ありがたい時代でありながら、先が見えにくい時代です。
答えが出る話ではありませんが、だからこそ、こんなぼやきを言語化することには意味があると思っています。ウイコネもブログも含めて、来年も自分なりに続けていきます。読んでいただいた方、関わってくださった方に、改めて感謝です。
こんなことを書いていたら2026年になってしまいました。
本年も皆様にとって、充実した1年、ウイスキーライフになりますよう。

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