脱・ウイスキー初心者への道⑥ ウイスキーの「ラベリング」と「コンテクスト」

脱・ウイスキー初心者への道⑥ 脱・ウイスキー初心者への道
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脱・ウイスキー初心者への道も折り返し地点を超えてきました。

前回は、香味と知識のリンクという内容でした。ここでは、よりテイスティング時にとして定着させるためのアプローチを考えていきましょう。

前回の記事はこちら。

最初から読みたい方はこちら。

ウイスキーをラベリングする

ここでも、ウイスキーにハマり始めたAさん、Bさんと、ウイスキーが好きすぎて沼にハマっているCさんに登場してもらいましょう。

まずはCさんのウイスキーの飲み方を見てみましょう。例えば下のラフロイグを飲もうとしているとします。ある程度経験を積んだドリンカーなら、多分飲む前に下に書いてあることくらいは考えるんじゃないかと思います。

Cさん
Cさん

長熟のラフロイグか。オフィシャルでイアン・ハンターストーリーという新シリーズのファーストリリースだし期待だな。リリース時期から逆算すると、蒸留年は1988-89くらいかな。ラフロイグのオフィシャルはフルーティーにそこまで触れないものも多いけど、88辺りのラフロイグはやけにフルーティーなものも良くリリースされていたので楽しみだ。

色合いを見てもホグスヘッドだろうし、フルーティーさが期待できるな。でも最近のラフ27年とか28年はラフロイグそもそもが有していたフルーティーなニュアンスというよりも、長熟度数落ちのフルーティーさが出ていたな。どうせなら88蒸留あたりのフルーティーさが出ていると嬉しいけれど、度数が低いのが心配だな…

これを小言でブツブツ唱えている人が現実にいたら引いてしまうものですが、実際経験値があるドリンカーはこれくらい考えるでしょう。この内容を要素ごとに分類しましょう。

  1. ラフロイグである。
  2. オフィシャルのシリーズもののファーストリリース(真偽は不明ですがファーストリリースは美味しいと考えている人は多いです)。
  3. 1988年から89年蒸留のラフロイグは、フルーティーなものが多い。
  4. 最近のオフィシャルラフロイグで長熟のものは、長熟度数落ちによるフルーティーで、2.とは異なるフルーティーさが出ていたりする。
  5. はホグスヘッドなどのプレーンな樽と予想。
  6. 度数がやや低いので、過熟な樽感や度数落ちによるフルーティーさが出ていないかが心配である。

これを見るだけでも次に示すような6つの要素がありました。①蒸留所 ②オフィシャルかボトラーズか ③蒸留年 ④熟成年数 ⑤樽 ⑥度数 ⑦リリース時期この7つの要素を組み合わせて考察するだけで、上のような予想をつけながら飲んでいるわけです。

このような予想を立てながら飲むことは、ウイスキーを楽しく飲むことと同義では当然ありません。なので別に真似をしろというわけではないのですが、ウイスキーを深く知るためのヒントがここにあると考えています。この状態を、Drinker’s Loungeの夜久さんの言葉を借りて、ハイコンテクストであると定義しましょう。すなわち、一本のボトルからそのボトルの特徴を示す特徴量を抽出、つまりラベリングし、それぞれの特徴量を組み合わせて考察することで、ボトルの香味を予想して飲むということがハイコンテクストである、ということです。この逆の状態をローコンテクストと定義すると、ハイコンテクストとローコンテクストの違いは当然特徴量を抽出する種類の大小(正確に言えば次元)となります。要は一つのボトルにいろんな情報をラベリングできるかどうかということです。これをまだローコンテクストな状態にいるAさんが飲んだらどう感じるでしょうか。

Aさん
Aさん

30年もののラフロイグ!ピーティーだけどまろやかで甘味があって美味しい!

Aさんが抽出した特徴は、ラフロイグであること30年であること。同じボトルでも、一つのボトルから得る情報量はこれだけ違うのです。

ここも勘違いしてはいけないのですが、ローコンテクストは悪でハイコンテクストは善といいたいわけではありません。例えば、あまりハイコンテクストに飲みすぎても面白くないことが正直あります。目の前のボトルを美味しいと思えればそれでいいんです。ではなぜハイコンテクストを紹介するのか?これはローコンテクストに飲んでいるうちは、自分の好みがわかりにくくて、一人で飲み進めるのが難しいためです。一人で飲み進めるのが難しい状態で一人で飲み続けると、飲んでいてもあまり楽しくなくなります。

ちょっとややこしいので詳しく解説します。まず、ウイスキーは知識ばかりを詰め込み頭でっかちにしてもあまり面白くありませんし、ドリンカーとしてはあまり健全な状態でない、そう私は考えています。このことから説明しましょう。ポットスチルの形状がどんな形という知識があったとして、ドリンカーとしての姿勢を考えるのであれば、この知識はあくまでウイスキーそのものの香味を補足するための知識であるべきだと考えます。蒸留所そのものが好きであったり、ウイスキーを作っていたり、ウイスキーの仕事をしたい方が勉強したり、ただ知識を詰め込みたかったりする人を否定しているわけではありません。ただ目の前のウイスキーを味わう上で、蒸留所の細かい知識が先行しすぎることが健全ではないということです。なぜ健全でないかは色々と意見はありますが、その一つを挙げると、(少なくとも)エンドユーザーが得られる知識は不完全で、確かなことと不確かなことの線引きが難しいというのがあります。ありがたいことに日本はウイスキーや関連する酒類の本がたくさんありますが、その殆どは査読があるわけでもなく、間違ったことが書いている本は多くあります(たとえ有名な方の著書だったとしても、例外ではありません)。このような話はウイスキーや酒類の分野に限らず、どのようなジャンルの本でもある話で、仕方ないことです。間違いが含まれている本に価値がないわけではなく、私も間違いが含まれていてもその本で勉強することはよくあります。主張したいことは、正確でないことを指摘してその本を非難したいのではなく、正確ではない知識を詰め込みすぎている状態で、目の前のウイスキーから得られる情報を疎かにすると、せっかくの機会を知識で歪めてしまうおそれがあるということです。香味の解像度が低い状態ではなおさらでしょう。ドリンカーがハイレベルなドリンカーたらしめるのは、知識を香味とを結びつけることにある、そう私は思うわけです。

次の章からは、このハイコンテクストになるための方法論の一つについて考えていきます。

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