ボトラーズウイスキーって何?~入手経路からみたボトラーズの実情~ 【解説本には載っていないウイスキー講座 Vol.2】後編

【解説本には載っていないウイスキー講座】ボトラーズウイスキーって何?~入手経路からみたボトラーズの実情~ 後編 ウイスキー解説記事
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不定期ですが「解説本には載っていないウイスキー講座」という記事を作ることにしました。ここでは、ドリンカーではコモンになりつつある事情や、海外の文献ではフツーに書かれていることだけれど、なぜか日本語になってなかったり、なぜか文献になっていなかったりすることをまとめていく予定です。テーマはたくさんあるわけではないですが、まずは知っているようであまりよく知らない、ボトラーズについて解説していきます。

この記事は後編です。前編は下のリンクからどうぞ。

前編のまとめ

歴史的なボトラーズは、蒸留所から若い原酒を直接入荷できる。これをこの記事では第1の入荷方法と名付け、このようなボトラーズを第1世代ボトラーズと便宜上呼ぶことにする。

第1世代ボトラーズは様々な原酒を大量に仕入れなければいけない関係から、たくさん購入でき、コネクションも有している大手ボトラーズがほとんどである

第1の入荷方法では質の低い原酒も同時に入荷するリスクがある。そのため、良いリリースもそうではないリリースもある。これは、ボトラーズの良し悪しではなく、入荷形態の問題なので回避することは不可能。すなわち、第1世代ボトラーズは良い樽もそうでない樽も保有していることとなる。

第1世代ボトラーズから熟成の済んだ樽を購入し、リリースするボトラーズがある。これを本稿では第2の入荷方法と定義し、これを主とするボトラーズを便宜的に第2世代ボトラーズと名付ける。

第2世代ボトラーズは熟成済みの樽を購入し、すぐにボトリング、リリースを行うため、好みの品質のウイスキーを中心にリリースすることができる。

第1世代ボトラーズから樽を売ってもらうコネクションが必要。

人気で高品質の樽は価格も高く、高騰しやすいことがある。

ボトルでのやり取りを行うボトラーズ

第3の入荷方法

最近、大きくボトラーズとは言っていないところから、様々なボトルがリリースされている酒屋などを目にしないでしょうか。例えばシンガポールの有名バー、オールドアライアンス。バーでありながら、ウイスキーエージェンシーをはじめとしたさまざまなところとジョイントし、リリースを行っています。オールドアライアンス向けのリリースは質の高いものが多く、アジア向けは一気に売り切れてしまいます。

日本では最近だとモルトヤマがわかりやすいでしょうか。2014年にはじめて3周年記念でプライベートボトルをリリースした酒屋ですが、ここ数年はアスタモリス、ウイスキーファインドなどの第2世代ボトラーズからプライベートボトル(PB)として日本市場向けに自社ショップで販売しています。ウイスキーフェス向けのボトルなどもありますね。このようなプライベートボトルなどの不定期リリースを行うショップは、どのようなサプライヤーを有するのでしょう。

前述した第2世代のボトラーズの視点で考えましょう。自社ブランドでリリースしたい樽を選定したとして、入荷した樽が余ることがあります。その余剰在庫はどうするのでしょうか。これら第2世代ボトラーズは樽の保管庫は小さく、またある程度熟成した樽を購入しているため、長期に置いておくと過熟となってしまい、良い状態でボトリングできなくなってしまいます。そのため、余った樽はボトリングされ、他の第2世代ボトラーズや、小売店などに回すことになります。この余剰在庫を購入し販売する方法を、ボトラーズの第3の入荷方法と呼び、そのボトラーを第3世代ボトラーズと便宜的に呼ぶことにしましょう。

ボトラーズのヒエラルキー

興味深いことに、ボトラーズのこの構造はヒエラルキーに見えます。この関係を図示してみましょう。

これをみてわかるように、第3世代ボトラーズは樽を有しているわけではなく、第2世代ボトラーズのラベルなしボトルを買って、ボトルをリリースしています。第2世代ボトラーズにとっては、回転率の高さ、キャッシュフローの速さが重要な要素であり、需要がある昨今の市場では、第3世代に(まるでOEMを請け負っているかのように)すぐに流して売ってもらった方がお互いに都合が良いのです。

さらに、第3世代ボトラーズはその規模の小ささ故、1樽を丸々リリースできないことがあります。考えてみれば、供給元がボトリングしている状態であれば、単一の第3世代ボトラーズが1樽丸々購入する必要は必ずしもないわけですし、300本一気に売るのもしんどいですよね。このような状況下では「カスクシェアリング」という現象が起こります。すなわち、カスクの一部をボトラーズが買い取り、残りを他のボトラーズが買い取ってリリースするといったケースです。良い樽であれば「ジョイントボトリング」として、複数のボトラーズが連名で連なりリリースし、それぞれのボトラーズのブランディングを狙うこともあるでしょう。最近であればベンネヴィス1996などはジョイントで様々なボトラーズがリリースしています。困ったことに、カスクシェアリングされているものでもカスクナンバーが異なることがあり、同じボトルなのに全然違うスペックに見えることがあるので注意しなければなりません。

この章のまとめ

第2世代が自身のブランドでリリースしなかった樽は、しばしばラベルなしでボトリングされる。それらを購入することを第3の入荷方法とし、便宜上第3世代ボトラーズと名付ける。

第3世代ボトラーズは、小規模なボトラーズやプライベートボトル、イベント向けのボトルなども該当する。基本熟成庫を持たない。

第3世代ボトラーズは、たくさんのボトルを抱えるのが難しい場合がある。その場合は一部のボトルだけ購入しリリースするカスクシェアリングを行うことがある。また、ボトリングを他のボトラーズと分けるジョイントボトリングを行う場合もある。

そのほかのサプライヤー

ブローカー

そのほかにもサプライヤーは多くあります。古くからはブローカーと呼ばれる人たちがいました。彼らはもともと蒸留所間での原酒のやり取りをする際に、手数料を徴収して樽を取引していた人たちです。ブレンデッドウイスキー全盛期では彼らは活躍していましたが、現在は蒸留所やブレンデッドウイスキーの会社から、ボトラーズなどへの樽売却を仲介する側面の方が多いのではないでしょうか。

前述した第1世代、第2世代のボトラーズはブローカーの側面もあります。すなわち、蒸留所や第1世代ボトラーズから購入した樽を、そのまま他の第2世代ボトラーズなどに回すことです。これらは一般消費者にはよくわからないところもあれば、インターネットの発達により比較的簡単に情報を入手することもできますし、中には個人で購入できる樽もあります。

蒸留所からの直接購入

本稿の前半では、「蒸留所から樽を直接購入はほとんどできない」としましたが、例外があります。むしろできるといってもいいのかもしれないくらい、様々なバリエーションがあります。

もともと古くから1樽売りは良くされており、例えば20年前のスプリングバンク蒸留所や、10年前のキルホーマン蒸留所などでは、プライベートカスクが現地で購入できました。今となっては高騰してしまい信じられません。一部のボトラーズは、このような個人購入の樽を買い、自身のボトラーズからリリースすることがあるようです。

例えば新興蒸留所のラッセイ蒸留所では、30リットルと190リットルの比較的小さいカスクでの樽売りがあります。熟成庫は蒸留所のものを借りることができます。30リットルなら熟成しても30本くらいボトリングできるでしょうか。個人で抱えてもなんとかなる量かもしれません。

ラッセイ蒸留所のカスク売り。

日本でももともと山崎蒸留所はカスク売りをしてましたし、現在でも静岡蒸留所などは樽売りをしています。このように、現在でも個人で樽を買おうと思えば買える、というのが正しい認識かもしれません。

また、著名なボトラーズはオフィシャルから樽購入の話がいくことが時々あるようですし、日本では信濃屋やウイスキーフープがオフィシャルボトルをリリースすることもあります。つまり、第2世代、第3世代ボトラーズでも蒸留所から直接購入する場合はあります。

カスクオークション

近年台頭しているのはこのカスクオークションではないでしょうか。カスクオークションでは、1樽の所有権がオークションにかけられます。樽によって状況が違いますが、オフィシャルの熟成庫に熟成されている樽がそのままオークションにかけられ、追熟もオプションでできるものもあります。カスクオークション市場は活発になっているようで、中には投機的に参加する人もいるようです。これらのオークションやバイヤーからの入手は、一部は口外できない契約も存在するようです。

以上の点を踏まえて、ボトラーズの有名どころのサプライヤーは下のような形になるでしょうか。だいぶ最初の図と実際はかけ離れている、というのがご理解いただけると嬉しいです。

注意

スコットランドやUK国内でこれらのボトルを買おうするのはいいのですが、買うのは結構大変です。税関を通す書類審査などの手間や、他の人に売ろうとするなら酒類販売免許、酒屋に売ろうとするなら酒類卸売業免許が必要になる可能性があります。輸入業はトラブルも多いですので、実際に購入を考えるのであれば、相応のリスクがあることや免許が必要となる可能性があることをご承知おきください。

この章のまとめ

ボトラーズの樽やボトルの供給先は、ブローカーやカスクオークションなどがある。

新興蒸留所などで顕著だが、小規模単位で樽売りしてくれる蒸留所も存在する。

国外のウイスキーを輸入することはリスクを伴う。特に1樽引っ張る場合はリスクや免許が必要なことがある。

おわりに

サプライヤーからみたボトラーズの分類をしていきましたが、最後までお読みになった方はわかるように、この第1世代、第2世代、、、といった分け方は結構恣意的です。しかし理解していただきたいことは、ボトラーズやプライベートボトルといってもいろんなサプライヤーが存在すること、その中にはサプライヤーが言えるものも言えないものもあること、また大手ボトラーズやオフィシャルから引っ張ってくるということが如何に大変かということも知っておいた方がいいでしょう。

ここ最近はウイスキー需要の急増から、蒸留所が樽売りをしてくれなくなってきているようです。となるとこの記事でいう第1世代のボトラーズは苦戦します。それに伴って、自身で熟成を行ってこなかった第2世代のボトラーズ、第3世代のボトラーズはさらに原酒が枯渇するという負のスパイラルが発生します。

需要が共有を大きく上回った市場は、当然のことながら高騰します。第2世代ボトラーズはリリースボトルが高騰の一途をたどり、また第3世代ボトラーズは第2世代が供給できなくなることにより、質の高いカスクが回ってこなくなり、リリースが極端に減るという現象が起きます。近年は中国や台湾を中心としたアジア向けボトラーズがたくさん作られていますが、一方でヨーロッパでは第3世代ボトラーズを中心にここ数年リリースがないところも増えてきました。日本も例外ではなく、日本市場が縮小してしまうと、欲しいウイスキーが日本にリリースされなくなる未来が来てしまうかもしれません

ボトラーズのサプライヤーの原理を大まかにでも知ることは、現在のボトラーズがいかに苦戦しているかを知ることにもつながります。このような状況下でも、話題となるリリースを多く継続的に行っているボトラーズは、幸いなことに日本にもいくつかあります。日本向けのリリースをしてくれるボトラーズもあります。そういう良心的なリリースをするボトラーズには敬意をもって、買ったり飲んだりしてほしいと思いこの文章を書きあげました。ご参考になれば幸いです。

参考文献

1.THE HIERARCHY OF INDEPENDENT WHISKY RELEASES

9年前の記事ですが、アジア圏が活発になる前のマーケットについて書かれています。こちらを大いに参考にしました。

http://www.maltmaniacs.net/E-pistles/Malt-Maniacs-2011-10-Hierarchy-of-independent-whisky-releases.pdf

2.A-Z of Whisky Author: Smith, Gavin D

少し古いですが、辞書的に使えます。ブローカーの項目について参考にしました。

3.ラッセイ蒸留所

https://raasaydistillery.com/raasay-whisky/buy-whisky-cask/

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