ボトラーズウイスキーって何?~入手経路からみたボトラーズの実情~【解説本には載っていないウイスキー講座 Vol.1】 前編

【解説本には載っていないウイスキー講座】ボトラーズウイスキーって何?~入手経路からみたボトラーズの実情~ 前編 ウイスキー解説記事
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この度、不定期ですが「解説本には載っていないウイスキー講座」という記事を作ることにしました。ここでは、ドリンカーではコモンになりつつある事情や、海外の文献ではフツーに書かれていることだけれど、なぜか日本語になってなかったり、なぜか文献になっていなかったりすることをまとめていく予定です。テーマはたくさんあるわけではないですが、まずは知っているようであまりよく知らない、ボトラーズについて解説していきます。

はじめに

ウイスキーを飲み始めたとき、酒屋やバー、もしくはTwitterなどのソーシャルメディアで情報収集しているときでも、必ずと言っていいほど付きまとう言葉、「ボトラーズ」。ある程度解説されている記事もあるのですが、「ちょっとマニアックだし避けておこう…」と思われる方も一定数いらっしゃるように思います。また、具体的なボトラーズについては数種類の解説で終わってしまっているのが現状で、ドリンカーとしてどう付き合っていくべきか、という視点での解説があると良いだろうなと思っておりました。というわけで、今回はそのボトラーズについて、私の知る範囲で解説していくこととしました。まずは総論編として、入手経路からみたボトラーズの分類についてみていきます。

複数の方から聞いた話や文献をもとに、なるべく今の実情に近い形で記載していますが、わかりやすくするために恣意的に分類している箇所があります。事実と異なる点があればコメントでご指摘ください。

ボトラーズとは?ざっくりとした解説とピットフォール

ボトラーズ、英語ではIndipendent bottlerと言い、日本語では独立系瓶詰業者とも言われるこれはいったい何なんでしょうか。主にスコットランドで発展したこのボトラーズ。一言で説明するなら、蒸留所から一部原酒を買い取り、リリースする業者を指します。以下の図にお示しします。

一般的なボトラーズの理解なら、上記の図を理解できれば十分です。「蒸留所が全部ボトリングするわけではなく、一部大口で買い取って販売する業者がいるんだな」と思えばOKです。よくあるウイスキーの解説本も、上のような解説になっているでしょう。

しかし細かく見ていくと、このボトラーズも色々とあるので、一概に上のように言えません。むしろ今はボトラーズが樽を仕入れる方法として、蒸留所から直接買い取ることができるのは少数派でしょう。今回、この入荷方法についてまず解説していきます。

歴史的なボトラーズ 

 例えばある海外の酒屋が、ウイスキーを1樽購入し、すぐに商品化するというアイディアを持っていたとしましょう。蒸留所に行き「1つ樽ください」と言えば購入できるのでしょうか?答えは多くの場合ノーです。樽売りしている蒸留所は一部あるのですが、このご時世、蒸留所に頼み込んですぐに商品化できるような樽を売ってくれるところはほぼありません。蒸留所との直接交渉でウイスキーを購入するのであれば、①超高額で購入する、②複数の樽を一気に購入する、③まだ熟成の短いボトルを購入する などが最低限必要となります。非常にハードルが高い交渉になるわけです。

 歴史的にはどうなっていたのでしょう。もともと、蒸留所はブレンダーにブレンデッドウイスキー用のウイスキーを払い出していましたが、一部はボトラーズにも樽を払い出していました。現在でも有名で、歴史的な大手ボトラーズはこのように直接ボトルを買っていました。ゴードン&マクファイル(Gordon & MacPhail)、ダグラス・レイン(Douglas Laing、後にハンターレインHunter Laingと分社)、BBR(Berry Bros. & Rudd)、ケイデンヘッド(Cadenhead’s)、ダンカン・テイラー(Duncan Taylor)、シグナトリー(Signatory Vintage)などが挙げられます。ある程度ウイスキーを飲んでいる方ならご存じのボトラーズ、ないし聞いたことがある名前は多いのではないでしょうか。

 これらのボトラーズのビジネスモデルは次のようなものです。いろんな蒸留所から若い原酒を安く大量に購入し、自社の倉庫で何年も熟成させ、時期が来ればボトリングする、この一連の作業で利益を生み出します。ウイスキーを熟成・貯蔵することはコストがかかりますので、全てのウイスキーが蒸留所内で熟成されるわけではないのです。ウイスキーが売れなくなればその樽の価値は将来的に下がりますし、ウイスキーが売れれば高騰します。蒸留所としては、今キャッシュが必要なら若いときに売り払った方が良いこともあるでしょう。最近ではブレンデッドウイスキーの需要が低下していることから、そこからも多くの樽が払い出されているようです。大手のボトラーズはその需要に応えているとも言えます。

 歴史あるボトラーズが所有する樽は、蒸留所サイドがもう所有していないものもあります。時には、蒸留所側がボトラーズから買い戻すこともあります(ポートエレンやグレンロセスなどが噂されています)。ボトラーズとの樽のやり取りは、ウイスキー市場の均衡をとるためにも必要な業種なのでしょう。

このボトラーズのビジネスモデルの問題点の一つは、原酒が若いうちだと、良いリリースかどうか判断できず、質の低いカスクもボトリングしなければならない点です。たとえば、「シグナトリーは品質が悪い」という話はいくらかウイスキーを飲んでた人なら聞いたことがあるでしょう。これは正確ではなく、良いボトルも悪いボトルもリリースしており、安いリリースはそれなりの品質のことも多いというのが正しいでしょう。現にウイスキーを飲み始めた方でも高評価でご存知かもしれないカスク、ウイスキーフープの和紙ラベルや、信濃屋の一部のリリース、エクスチェンジやメゾン向けのアーティストシリーズなどのリリース、多くはシグナトリーから購入したボトルです。このように絶賛されているものは市場にたくさん出回っています。また、大手ボトラーズの多くがブレンデッドをリリースしているのも同様の理由で、質の低いウイスキーも含めて、市場にリリースしなければならないのが大手のボトラーズです。

このような方法によるボトラーズの入荷形式を、ここではWhiskynotesのRuben Luyten氏(参考文献1)の言葉を少しアレンジして、第1の入荷方法と呼ぶこととし、そのボトラーを第1世代ボトラーズと書くこととします(後述しますが、このような画一したボトラーズの分類は恣意的であり、多少不適切な面がありますが、便宜上まずはこう呼ぶこととします)。

この章のまとめ

歴史的なボトラーズは、蒸留所から若い原酒を直接入荷できる。これをこの記事では第1の入荷方法と名付け、このようなボトラーズを第1世代ボトラーズと便宜上呼ぶことにする。

第1世代ボトラーズは様々な原酒を大量に仕入れなければいけない関係から、たくさん購入でき、コネクションも有している大手ボトラーズがほとんどである

第1の入荷方法では質の低い原酒も同時に入荷するリスクがある。そのため、良いリリースもそうではないリリースもある。これは、ボトラーズの良し悪しではなく、入荷形態の問題なので回避することは不可能。すなわち、第1世代ボトラーズは良い樽もそうでない樽も保有していることとなる。

新興ボトラーズの樽購入

第2の入荷方法

The Whisky Agencyというボトラーズはご存じでしょうか。カーステン氏が2008年に立ち上げたボトラーズで、短期間に高評価のボトルを何本もリリースしていた経緯から、認知度が高いボトラーズになりました。とくに2010年代前半までのカーステン氏のリリースは、70年代の長熟リリースが多く、フルーティーなボトルが多いとされます。他にもMalts of Scotlandやウイスキーエクスチェンジの有するボトラー、エリクサー・ディスティラリーなど。これらのボトラーズは自身の熟成庫を持ちません。持っていたとしても小規模なものに限られます。ではなぜこんなに高評価のリリースを連発できたのでしょうか。

このようなボトラーズが主にとる方法は、第1世代の大手ボトラーズから樽を買い取るという手法です。ウイスキーエージェンシーを例にとれば、少なくとも(2010年代前半までは)第1の入荷方法をとっている、とある複数のボトラーズからある程度熟成した樽を購入し、自身のブランドでリリースしていました。中には複数の樽を購入し、Liquid sunやThe Perfect Dramなど、サブブランドとしてリリースすることや、Three Riversや信濃屋などの代理店や企業とコラボし、特定の地域限定のリリースもしています。このようにコネクションとその審美眼を駆使し、熟成済みの樽を購入することで、安定した質の高いリリースを短期間に何度も行うことができました

このような入荷方法をRuben Luyten氏にならい、第2の入荷方法と呼ぶこととし、このようなボトラーズを便宜的に第2世代ボトラーズと呼ぶことにしましょう。この第2の入荷方法は安定した品質の樽をリリースできることから、一見良いビジネスモデルに思えますが、どこが問題になるでしょうか。

第2の入荷方法の問題点

第2の入荷方法の問題点は、次のように考えれば簡単にわかります。今自分が「おいしい樽を買いたい!」と大手ボトラーズに赴き、交渉したと仮定して、果たしてボトルが詰められるでしょうか?これも多くの場合、ノーです。今は様々な大手ボトラーズで出荷制限がかけられています。また、良い樽があったとしても大抵そんな樽は高くなります。つまり、ある程度のコネクションと樽が高くても買い取る覚悟が必要と言えるでしょう。特に最近の長熟レンジや人気のあるボトルは高くなってしまいますが、ブランディングを続けるならば高騰してでもリリースするしかありません。コネクションを作るためには、たくさんの樽を入荷する必要があるでしょう。このように、第1の入荷方法ではないボトラーズは樽のサプライヤー問題に悩まされます。小さなボトラーズの場合、これは死活問題になります。ウイスキーエージェンシーのような比較的大きなボトラーズは、次のような第3の入荷方法の側面にかかわることで、解決しています。

この章のまとめ

第1世代ボトラーズから熟成の済んだ樽を購入し、リリースするボトラーズがある。これを本稿では第2の入荷方法と定義し、これを主とするボトラーズを便宜的に第2世代ボトラーズと名付ける。

第2世代ボトラーズは熟成済みの樽を購入し、すぐにボトリング、リリースを行うため、好みの品質のウイスキーを中心にリリースすることができる。

第1世代ボトラーズから樽を売ってもらうコネクションが必要。

人気で高品質の樽は価格も高く、高騰しやすいことがある。

長くなりましたので、この先は後編として、次回の記事にいたします。
以下の記事からどうぞ。

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