比較的お手頃な95クライヌリッシュ。らしさは十分に感じ、買うなら今のうちな予感のボトル。
ボトルスペック
生産地域:ハイランド
蒸留所名:クライヌリッシュ
オフィシャル/ボトラー名:シグナトリー
樽の種類:リフィルシェリーバット
カスクナンバー:#8687
蒸留年:1995.9.26
熟成年数:1995年
ボトリング年:2016.3.16
解説
歴史
クライヌリッシュ蒸留所は現在と初期で同じ呼称でも違う蒸留所を指します。
元々のクライヌリッシュは1819年にジョージ・ルーソン=ゴア(二代目スタッフォード侯爵、初代サザーランド公爵)によって設立された蒸留所。彼は1785年に第19代サザーランド女伯爵であるエリザベスと結婚しています。フランス革命や戦争の時代であり、広大な土地を所有していたため、妻の勧めもあり積極的に開発を進めていたようです。その後蒸留所はかなり苦戦を強いられていたようですが、1896年グラスゴーのブレンダーであるJames Ainslie & CompanyがJohn RiskというBankier蒸留所の所有者と共同で買収、再建しました。1912年にJames Ainslie社は財政難により破綻、そのためJohn RiskはDCL(現ディアジオ)と連携し、所有権を取得。その後ジョニーウォーカーの原酒として用いられてました。
その後一時期は閉鎖もしていた旧クライヌリッシュ蒸留所ですが、1960年代に近代化されることとなります。また増産の必要性が高まり、1967年に新しい蒸留所が隣に建設されることになります。最初は両者の蒸留所をクライヌリッシュAとクライヌリッシュBとして稼働していたようですが、翌年には古いクライヌリッシュを閉鎖します。このときから現在まで稼働しているのが現在のクライヌリッシュ蒸留所です。
しかし1972年、カリラが改築に伴い閉鎖することとなり、ジョニーウォーカー向けのピーテッドウイスキーを生産する目的で、閉鎖した元クライヌリッシュ蒸留所をブローラとして復活させることとなりました。ブローラ蒸留所は1983年まで稼働していましたが80年代のウイスキー不況の煽りで休止。以後ブローラは人気なシングルモルトの一つとなり、かなりの高値で取引されることとなっています。最近ディアジオがブローラを今年2020年に復活させるというニュースもあり、今後の動向が気になるところです。
最近のリリース
こういう経緯もあり、ブローラ/クライヌリッシュは昨年2019年に200周年を迎えることになりました。ブローラ40年も発売されましたが、こちらは4500ポンド(約60万円)というお値段でした。ピペット1滴1-2万しそうな価格です。クライヌリッシュは蒸留所限定の20年がリリースされました。すぐに売り切れになり、日本ではかなりのプレミア価格になるなど、クライヌリッシュの人気っぷりをひしひしと感じました(結局価格におじけついて買えませんでした…)。
昨年オフィシャルからのリリースはゲーム・オブ・スローンズのシリーズも少し話題になっていたように思います。人気ドラマゲーム・オブ・スローンズとディアジオのコラボボトルですが、クライヌリッシュだけ何故かカスクストレングスと思われる度数でのリリースでした。実際美味しいボトルで、良いリリースでしたね。
ボトラーズからのリリースでは、元々72がグレートヴィンテージとして有名なビンテージで、1982, 1989あたりのリリースがかなり出ていた印象ですが、どれもリリースは影を潜めました。最近は1997が多いように思いますが、1993や1995もごく僅かながらリリースされてますね。元々ワクシーと評されるような蜜蝋、粘性のあるテクスチャが特徴的なクライヌリッシュですが、1997は1995などに比べると少しあっさりしたリリースが多い印象。これからのクライヌリッシュのリリースはどうなるのかなと思っていたりしますが、2019年にリリースされた信濃屋向けのシグナトリー08やハンドフィルの08といった2008年ビンテージがなかなか良いリリースで、クライヌリッシュの未来を垣間見たような気がします。
考察
さて、このボトルはシグナトリーがカスクストレングスでリリースしているものの一つです。シグナトリーのカスクストレングスのシリーズは大体年に4回くらいリリースされているかと思いますが、おそらくこれは2017年くらいに日本に入ってきたものです。購入したのは2019年の前半くらいだったと思いますが、当時でも1万ちょっとで購入できた記憶があります。
飲んでみると粘性のあるテクスチャーやワクシーなニュアンスは強くないまでも感じ、クライヌリッシュだなあと感じるには十分な味わいです。やや余韻がスパイシーでドライ、ウッディなのが気になる人もいるかもしれませんが、それを差し引いても今のご時世でこのレベルがこの価格で買えるのはシグナトリーを除いてないと言っても過言ではないでしょう。
シグナトリーのリリースは、クライヌリッシュではリリースのたびに10%程度の値上がりをしており、他の蒸留所も似たような値上がりをしています。30周年には良いボトルをしっかりと価格を上げて売ってきたあたり、シグナトリーはこのカスクストレングスシリーズの価格を敢えてお手軽にしていると考えます。シグナトリーが懇意にしているパートナーにPBを選ばせたあと、余ったカスクをリリースしているという噂もありますが、ウイスキーの状態や経営的判断などから、シグナトリー側が売るべきと思ったタイミングでリリースしているのは間違いなさそうです。良リリースを1軍と呼ぶならば、その影にはたくさんの2軍、3軍となっているリリースが存在するのもまた事実で、そうだからこそ同ビンテージでたくさんストックを抱えているシグナトリーが現在でも良リリースをコンスタントに出せているのでしょう。1軍をみるとキリはありませんが、そうでないものにもリーズナブルにリリースしてくれることで、ウイスキーの見識を広げてくれたり、いろんなビンテージのボトルを現実的に入手できるという恩恵をいただいてるのかなと思います。あーだこーだ言うよりはクライヌリッシュらしさをあまり考えずとも感じられるこのボトルは十分存在意義があるように思いますし、烏滸がましくもこういうものも楽しめたほうが長くウイスキーを楽しめるのかな、などと思ったりすることがあります。ともかくリーズナブルに楽しめるボトルだと思いますし、リーズナブルに95のクライヌリッシュを味わいたいなら、早めに購入しておいた方がよいのかなと思います。
評価
評価:A+
テイスティングコメント
やや弱い香り立ち。香りはアップル、アプリコット、オレンジ、バニラ、少しワックス、
飲むとバニラ、オレンジとアプリコットの甘みと酸味のあと、針葉樹や月桂樹、ウッディなニュアンスが支配的になる。余韻はスパイシーでドライ。
言いたかったこと
コスパ良いです。95買うなら今のうち。
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